For No One

パリ、東京、ニューヨークでの思い出話や日々思うことをつらつらと書いていきます。

翻訳コンニャク

結婚したがってる30代以降の女性で、「誰でもいいです!」と言う人に限って、絶対誰でもよくないよね。

というわけで、今回は最近思い出したエピソード。

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おそらく私が7、8歳で、もうフランス語がペラペラになっていたときのこと。

当時母と、毎週のように映画を観に行っていた。

母は毎週、キオスクでフランスの「ぴあ」のような小冊子を買って、映画館と時間を確認していた。Cinéscopeだったかな?

いつものようにキオスクで、母がその小冊子をくださいと告げると、店員のおじさんが「Trois francs, Madame (3フランです、奥様)」と言った。

フランスに来て1〜2年経ち、もともと英語のほうが得意だった母は、だんだん頭に入ってくるフランス語に戸惑って最も混乱していた時期だったんだと思う。

母は、「はい、3フランね」と独り言のように言いながら、お財布から小銭を探し始めた。

「さんふらん」という言葉を聞いたおじさんは、「Non Madame, pas cinq francs, c'est trois francs!」と訂正した。

フランス語で数字の5は、「さん(く)」と言う。

最後の「く」は、わずかに発音するだけなので、「さんふらん」が「5フラン」に聞こえたので、訂正してくれていたのだ。

でも、母の脳内は混乱しているもんだから、なぜ訂正されているのかがさっぱりわからず、「だから3フランでしょ?」と、日本語で話し続けたのだ。

そのあと「Mais non, trois francs!(違うよ、だから3フランだってば)」「いやだから3フランって言ってるでしょっ!」という不毛な会話が続いたが、私はなぜそんなことになっているのかが全く理解できず。

母の手をひっぱって不思議そうに「お母さん、それ日本語だよ?」と言ったとき、母は初めて状況を把握しハッとした。

 

今ならわかる。

母は相当いっぱいいっぱいだったんだと。

でも、当時は母の頭がおかしくなってしまったんじゃないか・・・と、しばらく心配だった。

 

別の日にも、「E.T.」を観に行って、タイトルをフランス語読みで「ウーテー」と行ったら販売員に苦笑され、「ああ、イーティーね」と返されて憤慨していたこともあった。

そうだよね、リチャード・ギアは「りしゃーじー」って読むもんね。納得いかないよね〜。

 

そんな母は、今でも父とたくましくフランスに住んでいます。