For No One

パリ、東京、ニューヨークでの思い出話や日々思うことをつらつらと書いていきます。

入院生活

ああ、久々の日差し。テンション上がります。

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出産した病院は無痛分娩で有名なところで、産後の母親の体力回復を優先するべく入院中は母子別室だった。授乳は3時間おきで、希望者だけ夜の12時から朝の5時の間の授乳ができ、希望しない人は少なくともその5時間はゆっくり寝られる制度だった。

個室だと母子同室が可能だけど、一泊2万円とかするのでばかばかしいと思い、私は4人の大部屋で入院していた。大きなパーテーションとカーテンがあるし、授乳やら色んな説明会で病室でゆっくりする時間も無かったので、別に気にならなかった。

それにしてもシュールだったのは授乳だ。って、日本の大きな産科病棟は大体そうなんだと思うけど。

3時間に一回、新生児室へ行って授乳をする。時間が決まっているのでお母さんたちは同時に授乳することになる。

その病院は計画出産がメインで、土日は計画出産は対応していないので、「新生児ラッシュ」の曜日が決まっている(と、後で考えて気がついた)。私が入院していた期間は多いときで20人弱の新生児が居た。

そのお母さんたちがそこまで大きくない(15畳くらい?の)授乳室で一斉に並んで授乳をするのだ。普通のことかもしれないけど、私はかなりショックを受けた。

すっぴんで、ダッサい入院着を身につけたお母さんたちがフラフラと授乳室へ入り、新生児の体重を計り、虚ろな目でおっぱいを丸出しにして乳房を揉み、まだ上手に飲めない赤ちゃんに授乳する。お互いの肘が触れ合うほど近い距離で、だ。

保育士さんが何人か歩き回って、おっぱいがうまく出ないと揉みほぐされ、赤ちゃんがうまく飲めていないと羽交い締めにして乳房をくわえさせる。もちろん赤ちゃんはギャン泣きだけど、構わず羽交い締めにして乳房を口に入れようとする。

 

な、なんだこりゃ。

 

奇跡的に生まれた自分の子供との、記念すべき最初のふれあいがこれって・・・。

辛すぎる。

お見舞いにきてくれたフランス人の友人もドン引きしていた。「プライバシーっていう概念は無いの?授乳はこんなに親密な行為なのに」って、ごもっともだ。もしかしたら日本は温泉とかで他人の裸を見る文化があるからこんなおかしな授乳室になってるのかな、とも思ったり。

 

保育士よりも怖かったのが、週に数回来る「母乳外来」の人たちだ。

これはあくまでも私の持論だけど、彼女たちは何か問題を見つけては桶谷式だかナントカ式だかの母乳外来へ行く必要がある、と脅してくる。

 

息子は私に似て口が小さく、私の乳房が大きすぎて口にうまく入らないので入院中はほとんど母乳を飲めていなかった。母乳は溢れんばかりに出ていたので、絞り出して哺乳瓶に入れたものを飲ませていた。

息子の口がもう少し大きくなれば解決する問題だし、それまでは友人にもらった搾乳機を使えばいいや、と思っていた。いずれにせよ粉ミルクと混合で育てようと思っていたので、母乳が出ていて息子が哺乳瓶できちんと飲めている以上何も心配していなかった。

ところが、退院の日に母乳外来につかまってしまった。

息子が全然おっぱいを飲めていないことに気づかれてしまい、2人で泣きながら嫌がる息子を無理矢理押さえつけて大きすぎる乳房を口に入れようとする。私も疲れていて怒る気力も無かったが、「全然飲めていないから、できたら一週間以内に来た方がいい」と言われ、内心「死んでも行くもんか、それよりも早く解放してくれ」と思っていた。気が弱いお母さんだったら言われた通り行ってたんだろうな。

 

結局予約していたタクシーが帰ってしまうくらい拘束され、退院したときは私も息子もグッタリで、迎えにきていた夫と母にも心配をかけただけだった。

 

案の定一ヶ月もしたら息子は上手におっぱいが飲めるようになり、粉ミルクと混合で育てて順調に大きくなっている。

 

入院生活を振り返ってみると、正直牢屋に入っていたような気分にしかならない。入院着も囚人服に思えてくる。それが嫌だからみんな個人でやっている産院で産むのか、とやっと理解した。そういうところは大体普通分娩しかやっていないから無理だけど。

なにはともあれ、無事出所できてよかったです。