ちょっと中学時代から現在へ戻って、先日起こった話をしようと思います。
今度詳しく書くつもりだけど(いつになるかわからないけど)、
私はかれこれ10年以上ゴスペルを歌っている。
歌い始めて2年くらいでニューヨーク赴任が決まり、本場ハーレムでも歌っていた。
今は三鷹のクワイヤに戻り、毎週練習に通っている。
仕事が終わってからゴスペルの練習まで時間があるので、
いつもはゴスペル仲間と同じカフェで軽くお茶(というかお酒)してるんだけど、
先日は彼女が旅行中で練習を休んでいて、もう一人の仲間もインフルエンザにかかってしまったので、一人寂しくそのカフェで時間を潰していた。
不思議なカフェで、静かでゆったりとした喫煙席があるので気に入っている。
そこで「温野菜の盛り合わせ」という名の、
茹でた野菜に塩をかけただけというふざけた1品と、
白ワインをグラスで頼んで、歌う前の腹ごしらえをしていた。
そうしたら、私の2席隣の男性の話が耳に入ってきてしまった。
「今カラオケボックスでバイトしてます。
バイトっつうか、遊びのようなもんですね。
周りが学生ばっかりなので、遊びみたいなもんです。
それなりに一所懸命やってますけどね。
受付とかドリンクとかも一人でできるようになったし。
俺が一番年上です。
真面目に就職活動もしたことないし」
・・・面接かな?見たところ20代の、普通の男性が話している。
と思いつつ、私はスマホでニュースを読んだりSNSを見たりしていた。
静かなので、どうしても声が響き渡ってしまうのだ。
次に気づいたときは、こんな話になっていた。
「彼女とは、ラインとかもあまりしないし、
1日2、3時間くらいしか会話できる時間が無いんですよ。
今すぐにでも会いに行きたいですよ。」
どうやら面接じゃないらしい。
相手の男性は私の席からは見えないが、
最低限の相槌だけをうって、たまにタバコに火をつける音が聞こえてきた。
ガン見したい衝動を必死におさえつつ、スマホに目を落とす。
人生相談かな?
静かなのでそういう会話にも適した場所だが、
もれなく周りの人にも自分の人生を語ることになってしまうのが難点だ。
そうこうしているうちに練習の時間が近づいてきたので、
出る支度をしているときに耳に入ってきた話がこれだった。
「『あぶない刑事』すごい好きなんすよ。
当時も欠かさず観てたし、DVDも全部持ってます」
なぜだ。
なぜ彼は相手の男性に敬語でこんな多岐にわたる話題を提供しているのだ。
もう気になって仕方なくて、思わずスマホに
「カラオケ バイト
彼女
と、メモってしまった。
帰り際に、絶対に相手の男性の顔を見てから出ようと思い、
コートを着てバッグと伝票を持つタイミングで、意を決して相手の男性に目を向けた。
私は、40代くらいのメガネをかけたスーツ姿の男性をイメージしていた。
カウンセラーっぽい人。
ところが、だ。
相手の男性は、下手したら人生相談男よりも若そうな若者だった。
しかも、室内なのに毛皮つきのアビエーターハットを被っていた。
(アビエーターハットは、昔のパイロットが被っていたゴーグルや耳あてつきの帽子)
かなりチャラい。カウンセラーだったらかなり異端児だ。
妄想がかなり熟していただけに私は相当困惑して、
目の当たりにした現実を受け入れられないまま放心状態でカフェを後にした。
あの会話の目的は一体なんだったのか。
彼は救われたのか。
あそこに通えば、また会えるのだろうか。
その時は一体どんな身の上話が展開されているんだろう。
思い出したら気になって寝れなくなりそうだ。